伊勢湾の恵みを炊き上げる

――「とろさんま蒲焼」

皆様、こんにちは。エン・トランス社の添乗員、佐倉瑞穂です。旅の仕事を通じて日本各地の美しい風景や美味しいものに出会う日々ですが、私たちが日々の暮らしでほっと一息つけるのは、やはり「白いご飯にぴったり合う、本物のお供」がある瞬間ではないでしょうか。キッチンで発酵食品やお惣菜の様子を眺め、体に優しい食卓を整える時間は、私にとって何より大切な養生の時間です。

今回そのルーツを辿って訪れたのは、愛知県は知多半島の先端、豊浜漁港の活気と、穏やかな伊勢湾の潮風が心地よく漂う南知多町。そこで出会ったのが、「つくだ煮街道」として地域に親しまれる名店の逸品、「とろさんま蒲焼」でした。

とろさんま画像

お醤油と出汁の芳醇な香りに包まれて

暖簾をくぐった瞬間、甘辛い醤油と出汁の芳醇な香りがふわりと鼻腔をくすぐります。目の前に美しく整然と並ぶつくだ煮たちを眺めているだけで、不思議と背筋が伸びるような心地よい高揚感に包まれ、「今日のご飯は何杯必要だろうか」と胃袋が警戒態勢に入ります。

まず、試食でいただいた「とろさんま蒲焼」に驚かされました。ひとくち口に含むと、お醤油のまろやかな風味の奥から、幾重にも重なったさんまの力強い旨味がじわりと広がります。聞けば、創業以来、半世紀にわたって大切につぎ足されてきた秘伝のタレでじっくりと仕込まれているとのこと。時間が醸し出すこの深いコクは、一朝一夕では決して真似のできない、芸術品のような深みがありました。

とろさんま網
つくだ煮 釜

伝統を継承し、時代を炊き込む「火加減」の技

この贅沢な味わいを支えているのは、今では数少なくなった、職人たちの実直な手仕事です。職人の一日は、目の前の豊かな漁場で水揚げされたばかりの新鮮な魚を見極めることから始まります。「魚の脂ののりや身の締まりは毎日違いますから。その日の魚の声を聴きながら、炊き上げる時間を変えるのです」と語る真摯な眼差しに私は深く胸を打たれました。

大型の釜から凄まじい湯気が立ち上るなか、職人が守り続けるのはじっくりと、しかし大胆に炊き上げる手仕事の技です。秘伝のタレを纏わせ、素材の芯まで旨味を染み込ませていく。焦げ付く寸前の、香ばしさが最高潮に達する一瞬を五感だけで捉え、一気に仕上げる。余計な添加物に頼らず、素材の鮮度と、職人の勘、実直な技だけで勝負するその姿にはただただ頭が下がる思いでした。

職人の手仕事

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我が家の食卓が一瞬で「至高の磯割烹」に

知多半島から自宅へ戻り、さっそく食卓へ並べてみました。夕暮れ時、炊飯器からシュルシュルと真っ白な湯気が立ち上り、お米の甘い香りが部屋に満ちたら、いよいよ至福の時間の始まりです。主役の「とろさんま蒲焼」をはじめ、南知多の豊かな海の恵みを詰め込んだ四つの味わいが、我が家の食卓を贅沢な磯割烹へと変えてくれます。

白飯ととろさんま蒲焼
南知多つくだ煮 四種盛り

1. とろさんま蒲焼 ── 脂の甘みと伝統のタレが白米を誘う

お皿に移しただけで、伝統タレの芳しさが食卓を満たします。炊きたてのご飯にそっとのせると、ご飯の温かな熱に触れて、染み込んでいたタレの上質な脂が「じゅわっ」と解け出し、お米の粒の間へとゆっくり染みていくのです。このお米とタレの境界線を箸で掬う瞬間の幸福感。青魚のサラリとした上質な栄養が、身体の隅々まで染み渡るようです。

2. 真いわしの甘露煮 ── 骨までとろける、伝統技術の最高峰

深い濃紺の美しい艶を纏ったいわしは、驚くほどホロホロと柔らか。骨があることすら忘れてしまうほどしっとりと煮込まれており、口の中で優しく解けていきます。丁寧な下処理のおかげで、青魚特有のクセは一切なく、驚くほど上品で贅沢な後味。身体に優しいお魚の栄養を丸ごといただける、私たち世代にとても嬉しい味方です。

3. とろさば蒲焼 ── 肉厚な身から溢れる、濃厚な青魚のコク

肉厚な身を、ほんの少しトースターで炙ってみてください。皮目の脂がチリチリと音を立てて弾け、香ばしいお醤油の薫煙が立ち込めます。ひとくち噛み締めれば、濃厚なさばのコクが口いっぱいに広がり、ご飯を運ぶ箸が自然と進みます。脂がしっかり乗っているのに、伝統のタレが後味をすっきりと引き締めてくれます。

4. たこ釜めし ── 磯の香りを贅沢に吸い込んだ極上の滋味

上品なお出汁と、ぶわっと広がる贅沢な磯の香り。主役のたこは絶妙な歯ごたえを残しながらも柔らかく、噛むほどにじんわりと豊かな旨味が溢れ出します。そのエキスを余すところなく吸い込んだご飯は、お腹がいっぱいのはずなのに、ついついおかわりしたくなってしまうおそろしい美味しさです。
とろさんま蒲焼・真いわしの甘露煮
とろさば蒲焼・たこ釜めし

暮らしに寄り添う、おもてなしの一皿

自宅の食卓にいながら、まるで伊勢湾の穏やかな潮風と、職人さんたちの情熱が目の前に浮かぶような、本当に贅沢な時間を過ごすことができました。魚の目利きから始まる職人技と実直な情熱が詰まった味わいは、お腹を満たしてくれるだけでなく、日々のあれこれで少し疲れた心と身体を、じんわりと内側から労ってくれます。

忙しい日の夕食に、さっと袋を開けるだけで小料理屋さんのような上質な一皿。

皆さんの健やかな日々にそっと寄り添っていただけますように。